戦略人事コラム

戦略人事に必要な企業経営の基本知識

作成者: 髙橋 宏誠|2024/09/21

戦略人事を実行するためには、人事担当責任者と経営者は同じ言葉でコミュニケーションをとり、企業経営の基本知識についての共通認識を持つ必要があります。
本コラムでは、人事担当責任者が経営者と共有すべきキーワードを使って、企業経営の基本知識を説明します。

筆者は、1990年後半から、人事制度を戦略の実現手段として構築できないかという打診や依頼に応え、以来30年近く、「戦略人事」に関わってきました。古くは、日本発の「方針管理」を目標管理に結合するという戦略的方針管理という手法、次に、当時所属していたヘイグループ、現コーンフェリーが提携した会社が推進しているバランスドスコアカード(BSC)という手法を含め、様々な取り組みを実施してきました。現在は、運用負担が大きくなりがちなBSCではなく、顧客企業の事業特性や組織の状況に合わせた方法にて戦略人事の構築を様々な形で支援しています。

1. 企業経営とは

1-1. 企業経営の基本

ここでのキーワードは、下記の3つです。

  1. 経営理念(企業の目的)
  2. 企業ビジョン(企業のあるべき姿)
  3. 経営戦略(企業戦略 + 事業戦略)

企業には、通常その存在目的として「経営理念」があり、企業のあるべき姿ということで「企業ビジョン」が設定されています。
そして、その企業ビジョンを追求するために「企業戦略(全社戦略)」があります。

企業戦略とは、「どこで事業を展開し、それらの間をどのように束ねるか」という問いに答えるものです。企業は通常、いくつかの事業を営んでおり、各事業の方向性を示すものが「事業戦略」です。そして、企業全体の戦略である「企業戦略(全社戦略)」と、個別の事業ごとの「事業戦略」を合わせた総合的な戦略を「経営戦略」と呼びます。

1-2. 経営理念(企業の目的)とは、

事業戦略を考えるにしても、まずは「経営理念(企業の目的)」が何なのかについて押さえておく必要があります。

「売り上げや利益を拡大する」とか、「優れた商品・サービスを人々に提供することによって社会に貢献する」等いろいろあるでしょうが、企業の最も基本的な目的は「企業価値の向上」です。

では「事業の目的」は何かといえば、それは「事業価値の向上」ということになります。

1-2-1. 経営理念(企業の目的)を明確にする意義

企業の目的は「企業理念」という形で明文化されており、企業の方向性を左右するものですから、明確になっていないと困りますが、会社が順調なときはあまり意識されません。

では、経営理念(企業の目的)を明確にする意義はどこにあるのでしょうか。

それは、企業が苦しい時に求心力を生み出し、社員を活性化することにあります。

企業の成長が停滞したりすると、社員があたふたしてなんでも儲かりそうなことに手をつけたりして、価値観の喪失が起こってしまうことがあります。このように企業が苦しい時こそ、経営理念(自社の目的)をもう一度問い直すことによって求心力を生み出し、社員を活性化することが必要になります。

1-2-2. 経営理念(企業の目的)の階層性

企業という組織の目的には階層があります。

会社という組織の究極の目的は「存続すること」であり、そのためには価値を生み出し、社会に提供していく必要があります。
この部分は通常、経営理念に規定されています。

一方で、組織が存続するための条件に「倫理の遵守」があり、最近ではコンプライアンスが問題になっています。
仮にコンプライアンス違反に問われなくとも、モラルに反する行動をすると、社会からの信用を失い、結果的に自滅してしまうこともあります。

もう一段下がると、そこには「利害関係者へのインセンティブ」と「彼らの組織への貢献」のバランスをとる階層があります。
取引先、従業員、地域社会など、誰かに何らかの不利益を与えて不満をもたれること自体が経営上のリスクとなるわけで、そのことは「企業の社会的責任」であると取られています。

組織の利害関係者其々の貢献・インセンティブ
利害関係者 組織への貢献 組織からのインセンティブ
所有者 資本 財務的報酬
経営者 経営に関する専門知識 賃金、職務満足等
従業員 技術・専門知識・労働 賃金、職務満足等
顧客 物・サービス購入による収入 物・サービスの効用
供給業者 高品質・低価格の原材料等 満足のいく取引対価
労働組合 自由公正な集団交渉 公平や賃金・雇用の安定等
地域社会 社会的経済的インフラ 地域社会への貢献
政府 公正な商慣行のルール 法・規制の遵守

1-3. 企業ビジョン(企業のあるべき姿)とは

1-3-1. 企業ビジョン(企業のあるべき姿)の重要性

企業ビジョン(企業のあるべき姿)は企業をどちらにカジ取りするのかに大きく関わりますので、はっきりとしたビジョンを持つことが大切です。

加えて、企業ビジョンの有無と将来の企業価値の関係性を示唆する興味深い比較調査をビジョナリー・カンパニーの著者であるジェームズ・コリンズ氏が実施しています。

ジェームズ・コリンズ氏は、理念やビジョンがしっかりしている会社18社と、それと同業種で理念やビジョンが明確でない会社18社を選び、それらの会社に1926年に1ドル投資し、90年まで投資し続けたとして元本1ドルがいくらになったかを計算してみました。すると、理念やビジョンが明確なビジョナリー・カンパニーは6356ドル、そうでない会社は955ドルになり、利益だけを追い求めていた会社よりも理念やビジョンがしっかりした会社の方がはるかによい結果となっていることが判明しているのです。

この調査は、理念やビジョンの重要性についてのひとつの証明といえるでしょう。

1-3-2. 企業ビジョン(企業のあるべき姿)を考える視点

まず、会社として「WANT」「CAN」「MUST」を考えます。さらに、利害関係者それぞれの立場から見たときにどういう存在でありたいのか、その目標を立てていきます。

  1. 自社
    1. 何を実現したいのか(WANT)
    2. 自社の現状を前提として何ができるのか(CAN)
    3. 何をしなければならないのか(MUST)
  2. 利害関係者
    1. 顧客にとってどのような存在でありたいのか
    2. 取引先にとってどのような存在でありたいのか
    3. 社員にとってどのような存在でありたいのか
    4. 株主にとってどのような存在でありたいのか
    5. 社会にとってどのような存在でありたいのか

企業ビジョンそのものではないですが、それに近い好例として、ジャック・ウェルチ氏が1981年GEのCEOに就任した際、取締役会に表明した発言を載せておきます。

      「10年後のGEが、独創的で意気高揚した、進取の気性あふれる企業として知られるようにしよう。追随を許さぬ卓越した水準によって、世界中にその名を知らしめるような会社に。われわれがGEに望むのは世界一の高収益と多角化を誇り、そべての生産ラインに世界クラスの優秀な管理者を擁するようになることだ。」

(1981年ウェルチがCEOに就任した際、取締役会に表明した発言)

1-4. 戦略とは

1-4-1. 戦略の定義

例えば企業ビジョンを目指すことを山登りに例えるとしましょう。道が3本あるとして「戦略」とはそのどれを選ぶかという問題です。道を切り開くのにナイフを使うか斧を使うかというのは戦術の問題といえます。よくある議論でおかしいのは、方向性とその手段がごっちゃになっていることです。できるかどうかは別として、進む方向が良いか悪いかを先に議論するのが「戦略」なのです。

本コラムでは「戦略」を「競合優位性を活用して、設定した経営目標を持続的に達成しうる整合的で具体的な施策」と定義します。

戦略の必要条件と十分条件
必要条件 十分条件
目標(戦略目標が明確に設定されていること) 整合的(個々の具体的施策が全体として一貫した狙いによって調和的に束ねられていること)
具体的(組織・要因の活動を示唆する具体的施策として示されていること) 優位性(競合にはない自社の強みが活かされていること)
競合性(競合の存在・対応を念頭において設計されていること) 持続的(戦略が持続的な効果をもたらすものであること)

戦略とは理念・ビジョンの実現手段ですから、まずはそれらが確立していることが前提となります。理念やビジョンは変えてはいけないものですが、戦略とはそれを追及するための方法論だから変えても良いものなのです。経営者はこのことを社員に伝えておく必要があるでしょう。顧客に大きな迷惑をかけない限り、戦略は環境変化に合わせて変更してよいのです。

1-4-2. 戦略の役割

では、戦略の役割とはなんでしょうか。このことを良く考えておかなければ、いい戦略はできないでしょう。

戦略が果たす役割とは、組織の向かう方向を明確にし、行動目標を与えることはもちろんですが、「組織を構成する人々にモチベーションを与えることで、組織自体をコントロールすること」にあると考えます。

2. 事業とは

ここでのキーワードは、下記の3つです。

  1. 事業の定義(「誰に何をどのように提供するのか?」)
  2. 戦略的事業単位(戦略立案・実行するための事業単位)
  3. 事業の基本スタンス(事業戦略を策定する際の指針)

2-1. 事業の定義(「誰に何をどのように提供するのか?」)とは

自分が関わっている事業はどのような事業なのか、誰に対してどのような製品・サービスをどのように提供しているのか、これらの問題に対する答えが「事業」の定義です。

事業の定義(例)
企業 製品志向の定義 市場志向の定義
レブロン 化粧品の製造 希望を売る
ゼロックス コピー機の製造 オフィスの生産性向上
ソニーピクチャーズエンターテインメント 映画の製作 エンターテインメントの提供

事業の定義と同じような意味内容をもつ言葉として「事業領域」「事業コンセプト」「事業ドメイン※」などがあります。個々の事業部が直面するものが事業の定義であり、定義されたものが事業領域です。全社レベルで行う事業の定義は企業ドメインです。

※事業ドメインのドメインは日本語では領域という意味であり、「事業ドメイン」と「事業領域」は一見同義です。しかしながら、事業領域は一般的な用語であって、時間軸では現在と近い将来を前提にして使われていることが多いです。一方、事業ドメインは、資源アプローチ※※の下、事業の将来的な構想の意味で使われることが多いです。

※※資源アプローチとは、市場における自社のポジショニングではなく、自社が持つ独自性の高い経営資源(ヒトモノカネ情報)を競争力の源泉と捉えて戦略を考えるアプローチ手法です。ですので、事業ドメインは、自社の強みを発揮した上で競争優位を獲得している将来の事業領域と言えます。

事業の定義の方法としては、通常3つの軸を使います。「顧客」と「顧客ニーズ(製品の機能)」と「技術」の3つです。顧客を定義するというのは、つまり「事業が対象とするのは誰か」を決めることです。技術とは、ここでは顧客のニーズを満たす方法のことです。
そこで、顧客をWHO(誰に)、顧客ニーズをWHAT(何を)、技術をHOW(いかに)と置き換えるとわかりやすいでしょう。

事業を定義する3つの軸:

  • 顧客(Who「誰に」): 事業が対象とするのは誰か
  • 顧客ニーズ(What「何を」): 製品の機能
  • 技術(How「いかに」): 顧客のニーズを満たす方法

事業コンセプトという言葉は、事業システム※を考えていく上で、現行の事業をとりあえず脇において、顧客の視点から事業を定義しなおす場合に使います。また、事業ドメインとは、事業の定義が現在の事業を表現するものであるのに対し、企業全体の視点から将来の事業の活動領域を表現するものです。

※事業システムとは、すでに存在している個々の事業のしくみそのものを言います。収益を上げるためのしくみ(収益構造)と資源を蓄積するためのしくみ(成長構造)から構成されます。この概念をベースにした戦略に事業システム戦略があり、戦略的投資、収益の最大化、ポジションの創造・維持・変革という三つのサイクルを繰り返すことにより、持続的競争優位を維持・強化していくダイナミックな戦略となっています。

2-2. 事業の定義(「誰に何をどのように提供するのか?」)の重要性

1)事業の定義は日常の仕事に役立ってる

事業を定義しなければ、マーケットシェアも市場成長率も計算できません。たとえば、ドレッシングを製造販売している会社が「主としてスーパーやコンビニを通じて売られる一般家庭用ドレッシング」を自分たちの事業としているのか、あるいは「レストランや生協の食堂などで使われる業務用のドレッシング」を事業の定義としているのかに応じて、自社がリーダー企業なのかチャレンジャーなのかなどが変わってきます。だから、事業の定義なんて必要ないと思っている人も実は暗黙のうちになんらかの定義をして、日々仕事をしているわけです。

2)事業の定義は事業経営に大きな影響を与える

「事業をどうとらえるか」は3つの点から事業経営に大きな影響を与えます。

  1. 事業の定義を狭く捉えてしまったために、事業の機会を見過ごしてしまうことがあります。この問題は、「マーケティング近視眼」と呼ばれています。逆に、広く捉えすぎると、事業の拡大志向に歯止めがかからなくなってしまうということがあるのです。
  2. 事業の定義に当たっては、顧客(WHO)顧客ニーズ(WHAT)、技術(HOW)の3つの軸を用いますが、これら三つの軸のどれを基軸として採用するのか、あるいはそれらの軸をどう組み合わせて考えるのかという問題があります。どのような事業の定義を採用するかによって、製品ポートフォリオ管理そのものが変わりますから、それから導き出される資源配分の原則や、事業の目標にも大きく影響します。
  3. 見直した事業の定義は「どのような経営資源をコアコンピタンスあるいは戦略的資源とするのか」という判断と連動しています。事業の定義如何で、活用・蓄積していくべき経営資源が異なってくるということです。顧客との関係で築き上げた関係か、それとも顧客ニーズ(顧客にとっては効用)に関わる知識の蓄積か、あるいは技術に関わる能力の蓄積かということです。

2-3. 戦略的事業単位(戦略立案・実行するための事業単位)とは

戦略的事業単位という言葉は聞きなれないかもしれません。しかし戦略は、必ずしも既存の組織単位ではなく、戦略を実行するのに適切な事業を対象として立案されることが多いため、この言葉を知っておく必要があります。事業区分のことを通常「ビジネスユニット(BU)」といいます。BUごとに戦略を立案することも可能ですが、事業部長が本来責任を持つべきなのは中長期的な戦略の策定とその実行であり、組織としては事業全体です。したがって戦略を立案する際には、実行していく単位、つまり「戦略的事業単位(SBU:ストラテジック・ビジネスユニット)」が検討対象となることが多いのです。

戦略立案において重要なのは、現状の組織形態にとらわれた見方をしないことです。たいていの会社には○○事業部、あるいは○○事業本部という組織がありますが、実際にはひとつの事業部や事業本部が実質的には複数の事業を進めていることが多いものです。一方でSBUは、戦略実行の有効性を考え、事業の性格に応じて戦略立案・実行するための事業単位で区分されたものです。

事業単位の区分の仕方が成長に寄与した例として、たとえばシャープが有名です。かつて、シャープは電卓を他の事業とは切り離して独立した事業としました。そして、液晶を将来の大きな柱にしようとして大きな工場を建設し、組織を整えていち早く体制を整えたのです。ところが、他の家電企業、たとえば、三洋電機は電卓事業を家電事業の中に組み込んだといわれています。おのずと電卓そのものに対する力の入れ方は弱くなります。その結果、シャープはカシオとともに電卓のシェアを大きく伸ばしましたが、三洋電機は先発であるにもかかわらず、大きく遅れをとることになりました。このことは、シャープの液晶事業での成功に結びついた理由のひとつと考えられています。

2-4. 事業の基本スタンス(事業戦略を策定する際の指針)とは

事業の基本スタンスとは、事業戦略を策定する際の指針です。

2-4-1. 事業の特徴としての基本スタンス

あなたの会社(事業)にはどのような特徴がありますか。特徴の創り方は、簡単に言ってしまえば「コストで勝負するのか」「差別化で勝負するのか」の2つのみです。事業の基本スタンスとは、コスト重視か差別化重視かのいずれかを決めることです。

コストで勝負するなら、
費用を徹底的に抑えてコストパフォーマンスの高い製品・サービスを作っていきます。この場合は、生産を人件費の安い海外に移転するとか、仕事のやり方を抜本的に見直して効率化を図ることが重要になります。
差別化で勝負するなら、
製品・サービスそのもののオリジナリティを追求していきます。この場合は、マーケティングや商品開発が非常に重要になってきます。

このように、事業の基本スタンスをコストにおくか、差別化におくかによってその後の戦略は大きく変わってくるのです。

2-4-2. 事業戦略における基本的な原則

どんな会社(事業)でも、原則として基本スタンスとして2つのうちいずれかを選ぶ必要があります。基本スタンスに一貫性がない、つまり特徴がない会社(事業)はたいてい収益性が低いものです。たとえば、差別化で勝負するという方針を決めたなら、製品開発に対して費用を惜しむことは本来あってはならないことです。ところが、不況になったからコスト削減が必要だとして、製品開発の分野までコスト削減の対象にしてしまうというケースがあります。このような一貫性のない事業の進め方をしていれば、社員のモラルは低下してしまいます。

事業の基本スタンスは、事業活動の一貫性を強調する点で、事業戦略における基本的な原則といえます。事業の基本スタンスとは、価値判断の基準であると同時に、企業文化を投影したものともいえます。

ただし、コスト重視をとる企業がコスト優位性を無駄にしないためには、価格を下げる必要があっても、顧客に受け入れられるような品質やサービスを提供しなければなりません。また、差別化重視であっても、競合他社をはるかに上回るコストで、差別化によって得た価格プレミアムを相殺してしまうようでは意味がありません。

2-4-3. ポーターの基本戦略

「コスト重視か差別化重視か」という視点に加えて、「ターゲットを分散させるか集中させるか」という視点をミックスさせた戦略理論がポーターの競争の戦略です。ターゲットを集中させる戦略が集中戦略であり、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略と合わせてポーターの3つの基本戦略といいます。

ポーターの3つの基本戦略
基本戦略 戦略の内容 競争力の源泉 ポイント
1. コストリーダーシップ 競合よりも常に低コスト 長期的投資継続のための資金力

低コスト、高シェアの良循環

2. 差別化 異なる効用の提供 ・製品開発力
・マーケティング
多数の小さな差別化ではなく、突出した差別化
3. 集中化 特定の事業分野でのドミナンス 投資集中と差別化集中 自社の強みを活かせるサブセグメントの発見

2-4-4. 基本スタンスの限界

1)基本スタンスは常に実行可能とは限りません。

業界内の企業が皆低コストを追求すれば、コスト重視戦略は効果がなくなります。 差別化をすることでコストリーダーシップの地位を確立できることもあります。たとえば、製品の差別化により製品の魅力が市場に広がり、一定の価格で売り上げを伸ばすことができることがあります。差別化により最初こそ単位コストは増えますが、学習効果、経験効果、規模の経済、範囲の経済などによってコストが下がれば、やがて単位コストも低下します。 TQM(Total Quality Management)の中で品質改良と低コストの両方を追求することも可能です。

2)一つの基本スタンスを追求することにはリスクもあります。

基本スタンスに一貫性は必要ですが、基本スタンスだけでは競争の激しい環境で持続的競争優位を築くことはできません。基本スタンスを追求することで一時的には競争優位を確立できても、それが持続するかどうかは顧客ニーズ、自社の経営資源や組織能力などに左右されるからです。

まとめ

企業はその存在目的として「経営理念」、目指すあるべき姿として「企業ビジョン」があり、その企業ビジョンを追求するために「企業戦略(全社戦略)」があります。
企業戦略と個別の事業戦略を合わせた総合的な戦略を「経営戦略」と呼びます。

企業の最も基本的な目的は「企業価値の向上」です。
会社という組織の究極の目的は「存続すること」であり、そのためには価値を生み出し、社会に提供していく必要があります。
企業が苦しい時こそ、経営理念をもう一度問い直すことによって求心力を生み出し、社員を活性化することが必要になります。

企業ビジョンは企業のカジ取りに大きく関わりますので、はっきりとしたビジョンを持つことが大切です。

理念・ビジョンの実現手段である戦略は、組織の向かう方向を明確にし、組織に行動目標を与えます。
加えて、組織を構成する人々にモチベーションを与えることで、組織自体をコントロールする役目もあります。

「誰に何をどのように提供するのか?」という問いに答えるものが事業の定義です。
事業の定義は「事業の機会損失 or 過剰な拡大思考の抑制」「資源配分の仕方や事業の目標」「活用・蓄積していくべき経営資源の判断」の点から事業経営に大きな影響を与えます。

戦略立案において重要なのは、通常の組織形態にとらわれた見方をしないことであり、そのために通常の事業区分(ビジネスユニット)とは異なる戦略的事業単位(ストラテジック・ビジネスユニット:SBU)を設けることは有効です。

事業活動においてコストあるいは差別化のどちらを重視するかを定める「事業の基本スタンス」は、その事業を特徴づけ、また事業活動の一貫性を強調する点で、事業戦略における基本的な原則といえます。しかしながら、基本スタンスだけでは競争の激しい環境で持続的競争優位を築くことは難しいものです。