このコラムでは、「人材ファーストの企業戦略」を確実に遂行するために必要なステップを解説します。人材主導型組織の基盤構築や経営トップのリーダーシップに焦点を当てています。
人材ファーストの本質は、「会社ではなく、人が価値を生みだす」という想いです。
この想いを企業戦略として具現化するには、人材を効果的に配分し、かつパフォーマンスを最大化できるよう適切にマネジメントする必要があります。
優れた経営者は財務資本の配分を常に検討し、その配分を見直しています。ある部門から資金を引きあげ、別の部門により多くの資金を配分しているのです。証券アナリストはこの動きを注視しており、グーグルの持ち株会社アルファベットのように資金を積極的に移動させている企業を高く評価しています。
しかしグーグルはもう一つの重要な資源の配分に関してもやはり同様な手法をとっています。その資源とは「人材」です。
ここで一つ、はっきりさせておかなければならないことがあります。
人的資本の配分は、金融資本の配分とは異なるということです。
ドルやユーロは送金したところに素直に向かいます。送金されたことに不満を漏らすような真似はしません。
一方、人材は自分の命運を左右されることについて黙ってはいないです。
才能ある人材が引く手あまたとなった現代においては、自社に最高の人材を惹きつけるには、本人に発言を許すだけでなく、積極的に発言するよう促す必要があります。人材の配置が成功するか否かは、社員本人の興味、キャリアビジョンが会社の戦略と一致し、人材が未来の自身の理想像をその会社内で描き、イキイキと働けるかどうかによって決まります。先進企業はこの難題にさまざまな方法で取り組んでいます。たとえばグーグルの場合、どんなプロジェクトに取り組みたいか決める裁量を社員個人がもっています。
人材のように複雑きわまる資本を最大限に活用するための唯一無二の解決策は存在しないですが、先進的な企業は一連の共通した原則をもっています。それは、人材主導型組織の基盤をもっているということです。
会社を人材ファーストの組織へと変革する、その複雑なプロセスは七つのステップに分けられます。
人材ファーストへの変革を目指す経営トップは、それぞれのステップにおいて、以下で紹介する実行可能な方法論を遂行する必要があります。
人材ファーストへの変革は、経営トップが一人で始められるものではありません。このミッションを確実に遂行するためには、経営トップには下記3つの方法論が必要不可欠となります。
人材ファーストの企業戦略を確実に遂行するには、会社全体でマインドセット、意識、そして仕事の内容に根本的なシフトを起こさなければならず、取締役会がこれをサポートする必要があります。
たとえば、指名・報酬委員会(※)は、スーパー・ハイパフォーマーに関する知識を徹底して蓄え、彼らの配置をCEOに対してアドバイスできるようにするべきなのです。
※指名委員会は、主に経営陣の選任と解任を議論して決定する組織、報酬委員会は指名委員会メンバーの報酬を決定する組織です。
才能ある人材を惹きつけ、増やすためには、これまでよりフラットで柔軟な組織を作る必要があります。
多くの企業では、仕事、意思決定、報酬、キャリアパス、さらには最新のパソコンを誰が使うかまで、万事が上司によって決められます。しかし、ヒエラルキーは有能な人材を孤立させ、埋もれさせるおそれがあります。
人材ファーストの企業では、仕事の特性に合わせてメンバーが集結・解散する、少数精鋭の部門横断型チームが活躍します。
このような組織の流動化は、創造性と成長を剌激し、またスピードを生みます。これは協働が生み出すパワーを利用し、新たな企業のエネルギーを解き放つために、既存の組織構造を解体するプロセスだとも言えます。
これは一回で済むような取り組みではありません。CEOは急激な変化についていけるよう人材を再編しつづけなければならないからです。攻めの姿勢を取りつづけるためには、組織は環境変化に合わせて最適化される必要があるのです。
今こそ、人事部がより大きな価値と競争優位性を生みだすよう刷新され、てこ入れされなければなりません。
この変革は、CHROの設置から始まります。CHROは、ビジネスへの洞察力をCFOと同等レベルで兼ね備えたメンバーでなければなりません。CHROは社員の能力を正確に把握し、適所に配置するという専門性を持つことに加え、事業責任や予算策定の経験をもつことが不可欠なのです。
人事部の変革はCHROだけで行うものではありません。CEOとCHROは、人事部門のどの業務が自動化、アウトソース化、またはオフショア化できるかについて、決断を下す必要があります。ここで、デジタルツールが変革を生みだします。たとえば、ジョンソン&ジョンソンでは、人事部の業務の三分の二を自動化しました。これは人事部が骨抜きになったというわけではありません。それどころか、多くの経営幹部が人事にもっと時間を割き、CEOが人事の経験をより多くもてる状況が作られたのです。
人事業務の自動化は、会社の競争力を高める業務、即ち、
スーパー・ハイパフォーマーの見きわめ/人材パイプラインの充足/グローバルな人材マーケットの動向の把握/事業ポートフォリオ変更に伴う組織構造の設計と求められる変化への柔軟な対応/重要な社員のモチベーションを高められるツールとして機能するような給与の設計とその運用/会社の戦略的方向性の設定と実施の支援等
に取り組めるよう、人事部員を従来の定型的な業務から解き放つ最善策なのです。この取り組みによって、会社全体がより高い成果をあげることが可能になるのです。
生産的な手法で社員の能力を高めつづける必要があります。
スキルは時が経つにつれ陳腐化します。それゆえ人材開発はいまだかつてないほど重要となっています。予測が困難となった経済の中で成長するには、会社は有能な人材に能力を発揮させるため、下記3つの取り組みをスタートすべきです。
CEO自身がしっかりとコミットしなければ、この3つの取り組みはどれも実現が難しいものです。
M&Aを優秀な人材の獲得手段として活用すべきです。
社内の人材をどれほどうまく育てたとしても、ビジネスが絶えず変化している現代では社外の人材にも目を向け、新たなビジネスチャンスに即座に対応できるようにすることが肝要です。しかしながら、優秀な人材の獲得競争は厳しさを増し、今後、その競争が熾烈をきわめていくことは明らかです。このような理由から、従来の採用とは異なる手法で人材確保する必要があり、M&Aによる人材獲得は有効な手段となっています。
その際、M&A活動の中心にCHROを据えることが重要です。CHROは社外の人材市場に対するもっとも明確な見通しをもっているべきであり、CEOが迎え入れた新たな人材を自社に統合する役目を担うからです。企業買収の半分以上が失敗に終わっていますが、その最大の原囚は、買収された企業のトップの要望がきちんと斟酌されていないことであると判明しています。買収による人材獲得の中心にCHROを据えることにより、この問題を解決する上で効果があるはずです。
この人材ファーストへの方法論の内容をすべて実行するには、経営トップのリーダーシップのあり方をすべて変える必要があります。
CEOは採用プロセスの設計者となり、その成果の監視者となり、スーパー・ハイパフォーマーの最高採用責任者となります。
社外人材を獲得するための羅針盤を開発し、取締役会を自身の人材マネジメントコンサルタントとするのです。従来は人事部に任せたかもしれないような課題をより詳細に把握し、それによってスーパー・ハイパフォーマーたちの成果とその他の人材の成長と学習の継続が最大化されているかどうかを確かめるということです。
さらに、CEOは、みずから模範を示し、組織をリードしなければなりません。なぜなら、CEO白身の熱のこもった明快なコミットメントが、全社に正しい姿勢を確立するうえで不可欠だからです。人材ファーストへの改革を実践するには、時問とエネルギーを費やし、集中して取り組まなければなりません。人材に時間を使うために、現在担っている職責のどれを手放すべきかを判断しなければならないのです。
人材ファーストの本質は、「会社ではなく、人が価値を生みだす」という想いです。
この想いを企業戦略として具現化するには、人材を効果的に配分し、かつパフォーマンスを最大化できるよう適切にマネジメントする必要があります。
これには財務資本のように人的資本を戦略的にマネジメントする必要があり、Googleなどの先進企業はこれを実践しています。
人材ファーストの企業戦略を確実に遂行するには人材主導型組織の基盤を作る必要があります。
人材主導型組織の基盤は、下記7ステップで構築します。
ステップ1:人材ファーストマネジメントチームを築き、スーパー・ハイパフォーマーのリストを用意、HRテクノロジーを活用
ステップ2:人材ファースト推進に向けて取締役会を強化
ステップ3:人材ファーストのために組織及び職務を再設計
ステップ4:人事部を競争優位の源泉にする
ステップ5:個々の社員の能力を引き出す
ステップ6:人材確保のためにM&Aを活用
ステップ7:経営トップ自ら人材課題へ取り組む
参考文献:Ram Charan, Dominic Barton and Dennis Carey, (2018) “Talent Wins: The New Playbook for Putting People First”