戦略人事コラム

人材ファースト組織の基盤を構築する3つの方法論

作成者: 髙橋 宏誠|2024/08/12

「人材ファーストの企業戦略」を遂行するためには、何よりもまず、人材ファースト組織の基盤が必要となります。
このコラムでは、その基盤を構築する3つの方法論について解説します。

1. 人材ファースト組織の基盤を構築する3つの方法論

人材ファースト企業への変革は、経営トップが一人で始められるものではありません。
この複雑なミッションを確実に遂行するためには、変革の土台となる基盤(=人材ファースト組織の基盤)が必要です。

下記3つの方法論は、人材ファースト組織の基盤を構成する必要不可欠な要素です。

  • 方法論1:人材ファーストマネジメントチーム
  • 方法論2:スーパー・ハイパフォーマーを特定し、育成する
  • 方法論3:人事をデジタル化する

2. 方法論1:人材ファーストマネジメントチーム

経営トップには、二つの経営資源があります。それは、資金と人材です。

そして、それらの経営資源を効果的に連動させる上で、CFOとCHROそしてCEOからなる人材ファーストマネジメントチーム(以下TFMT=Talent First Management Team)は必要不可欠な存在です。

TFMTの必要性

なぜTFMTが必要なのか。それは、少人数の会議なら重要な問題に真正面から取り組むことができるからです。TFMTを常設のチームとし、3人が四半期ごとに正式な会議を開き、公式な場以外でも折にふれ集まることにより、頻繁に意思疎通を図ることで、現状をリアルタイムで把握できるようになります。これまでの規定路線を踏んだ事業運営を変更することにより、TFMTは、官僚的な雑務を増やさずに、事業の実情を浮かびあがらせる本質的な議論をすることができるのです。

最重要な人材ファーストマネジメントチーム(TFMT)を創る

TFMTは、会社の業績に影響を及ぼす人事をすべてリードします。
つまり、経営トップとして取り組むことほぼすべてに、TFMTは取り組むべきだということです。

正式な会議であれ、非公式に集まる場であれ、TFMTは最重要な意思決定、業務のオペレーション、将来の計画において人事と財務を連動させるのです。TFMTで過去の事例を吟味し、事業の成功や失敗の根本的な原因を杷握し、業績を向上させるためにも、また、ビジネスを推進する人材が組織にいることを確認するためにも、この作業は欠かせません。

日本では、第一ラジオアイソトープ研究所(現在、買収されて富士フィルムの1事業部)のTFMTの成功が、CHROの立場を高いレベルに引きあげたことによって成果をあげられた好例です。CEOやCFOと密接に連携して働くうちに、CHROの経営分析力や人材とビジネスをリンクさせる能力が向上したのです。事実、第一ラジオアイソトープ研究所のCHROに対する信頼は強固なものになり、その後、CEOは子会社の経営をCHROに委ねたのです。

CHROの地位を引きあげる

三人は腹蔵なく話しあい、互いに支えあうのだ。

CHROがあらゆる意味でCFOと同等に欠かせない存在であることを明確にしよう。

Talent Wins(タレント・ウィンズ) 人材ファーストの企業戦略より

上述の三人とは、もちろんCFOとCHROそしてCEOからなるチームのことであり、CHROがCFO同等に欠かせない存在であると明確にすることは、人材の検討があらゆる経営的意思決定の要になると公言するに等しいことなのです。

CHROはビジネスへの洞察力が必要

このように重要な役割を果たすCHROには、自社ビジネスに対する深い洞察力と、人材を適切にビジネスに結びつける能力が求められます。そのため、CHROのポジションには、人事の経験以外にも事業責任を負った経験のある人材を選ぶべきです。

「CHROは最強のビジネスパーソンでなければならない。なかでも最高のCHROは並外れた戦略家になる」

フォードの元CEOで忌憚のない発言をするアラン・ムラーリーはすぐれたCHROについて、このように表現しています。

3. 方法論2:スーパー・ハイパフォーマーを特定し、育成する

TFMTが孤軍奮闘しても、スーパー・ハイパフォーマー無しには結果を出すことはできません。

ですので、TFMTの第一の任務は、

  1. スーパー・ハイパフォーマーを特定し、
  2. 彼らを正しいポジションに配置し、
  3. そして育成することです。

そして、彼らの成果を最大化するには、

  1. 彼らのスキルとニーズをしっかり把握し、
  2. 継続して彼らのスキルを向上させ、
  3. 一人ひとりに適したキャリアプランを策定し、
  4. 将来の会社における彼らの役割を評価しつづける必要があります。

スーパー・ハイパフォーマーを特定する

バリュークリエイター(価値創造者)は、必ずしも新製品の開発者、偉大な戦略家、出世街道を駆けあがる名人とは限らない。どんなポジションに就いていようと、彼らは問題の核心を突き、アイディアを別の角度から見直し、形式張らない関係を築いて協働を促し、組織をより健全で生産性を高くする人々なのだ。

Talent Wins(タレント・ウィンズ) 人材ファーストの企業戦略より

マッキンゼーの調査によれば、経営幹部の約七割は社内でもっとも影響力のある人材を見誤っているとのことです。
スーパー・ハイパフォーマーを見つけるには、徹底したリサーチと感度の良さが求められます。また、どこに目を配ればいいのかというセンスも必要となります。

莫大な価値を生み出すスーパー・ハイパフォーマーは、往々にして重要な意思決定を正式に下す立場にある管理職ではありません。TFMTはスーパー・ハイパフォーマーを見つけるために、会社の業績に大きな影響を与えている重要な意思決定を特定するだけではなく、それら重要な意思決定に最大のインパクトを与えている人材も正確に特定する必要があります。

社外の有能な人材にも目を向ける

スーパー・ハイパフォーマーが自社の社員でないことも十分に考えられます。人材ファーストへの変革を目指している企業は、定期的に異業種にも目を向け、自社の変革のキーパーソンとなりえる優れた人材を常に把握しているものです。

4. 方法論3:人事をデジタル化する

3番目の方法論は、社員一人ひとりの理解が可能となる、人材データに基づくHRテクノロジーです。

デジタル化を推進している企業は、すでに有能な人材の発掘、採用、研修/トレーニング、リテンション、業績評価、給与などの活動を効率的に行うためにHRアナリティクスを活用しています。今や、データを基にしたアナリティクスが、人事に関する意思決定の基準となる時代に突入しているのです。

HRテクノロジーで出来ることの例

採用

近年では、SNSや履歴書、その他公開データをリンクさせて求職者を見つけるだけでなく、AIを利用して候補者のスキルや文化適合性を予測するツールを導入しています。自然言語処理や機械学習の進化により、これらのシステムはより精度の高いマッチングを可能にし、採用にかかる時間を大幅に短縮するだけではなく、人間の偏見を減らし、より多様性に富んだ候補者のプールを提供しています。

ソフトバンクは過去のESデータを基にAIが自然言語処理を行い、1次スクリーニングを実施。不合格となったもののみを採用担当者が確認しています。結果、結果、書類選考にかかる対応時間・人件費を75%削減しました。

リテンション
AIを活用した分析ツールは、社員の感情分析を通じて退職リスクを早期に察知し、個々人の状況に基づいた対応策を提供します。これにより、スーパー・ハイパフォーマーに適切なタイミングで新しい挑戦を提供し、彼らのキャリア継続をサポートします。また、従業員のフィードバックをリアルタイムで収集し、迅速に改善策を講じることで、社員のモチベーションと組織への愛着心を向上させています。
キャリア開発
近年のデジタルツールは、長期にわたる多様な人事データを統合し、成長ポテンシャルのある人材を特定するのに役立ちます。データアナリティクスやAIを活用したプロフィール、日々の活動データや業績データの分析により、次世代のリーダーシップ候補を発掘する手法が普及しています。これにより、企業はより効果的に人材の開発を行うことができるようになっています。
パフォーマンスマネジメント
年に一度の業績評価に代わり、リアルタイムのフィードバックを提供するプラットフォームが一般的になっています。モバイルアプリやオンラインプラットフォームを使用し、社員とマネージャーが頻繁に対話することで、目標の進捗状況を共有し、迅速に改善策を講じることができます。これにより、透明性のある評価が実現し、個人およびチームのパフォーマンスが向上しています。
組織文化の変革

人材ファーストの組織を運営するためには、データアナリティクスとコラボレーションツールを活用して、社員が学び合い助け合える環境を整えることが重要です。

グーグルの調査によれば、グーグルのもっとも生産性の高いチームは、メンバー全員に発言の機会があるチームであり、そのチームでは大半の社員のEQ(心の知能指数)が高く、そこでかわされる会話はメンバー全員に安心感を与えていました。
チームの心理的安全性を重視し、社員全員が意見を表明できる文化を育むことはとても重要だということです。

以上の例は、新たなテクノロジーによってなにが可能になるのかを示す例です。

TFMTの確立、スーパー・ハイパフォーマーの見きわめ、新たなテクノロジーの活用は、人材ファースト組織の基盤です。
人材配置や資金配分する前に、この三つを備えておく必要があるのです。

まとめ

人材ファースト企業への変革には、人材ファースト組織の基盤が必要です。

人材ファースト組織の基盤を構成する3つの方法論:

  • 方法論1:人材ファーストマネジメントチーム(TFMT)
    CFO、CHRO、CEOからなるTFMTが、頻繁にコミュニケーションをとることで、企業の現状をリアルタイムで把握し、人事と財務を効果的に連動させます。
  • 方法論2:スーパー・ハイパフォーマーを特定し、育成する
    スーパー・ハイパフォーマーを特定し、彼らを正しいポジションに配置し、そして育成する必要があります。
  • 方法論3:人事をデジタル化する
    HRテクノロジーを活用し、人材データに基づくデジタル化を推進することで、効率的な人事業務を実現します。HRテクノロジーは、人間の偏見を減らし、組織を多様化することに加えて、組織文化の強化にも役立ちます。

参考文献:
Ram Charan, Dominic Barton and Dennis Carey, (2018) Talent Wins: The New Playbook for Putting People First”
書類選考・面接プロセスにおけるテクノロジー活用と効率化事例 Speeda “HRテック・採用” 2020