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戦略定石―競争戦略編

戦略人事を実行するためには、人事担当責任者と経営者は同じ言葉でコミュニケーションをとり、企業経営について共通認識を持つ必要があります。
本コラムでは、人事担当責任者が経営者と共有すべきキーワードを使って、競争戦略の定石※を説明します。

※ 戦略定石とは、戦略立案のよりどころとなる基本的な考えとも言ってよく、囲碁や将棋の定石と同じと考えてもらっていいと思います。知らなくては勝てないが、定石どおりでも必ずしも勝てるとは限りません。とはいえ、定石があるような状況では、まず、その定石の適用を考え、ついで、その定石を破った打ち手を考えてみるという順序となります。
戦略定石を知らないとどうなるでしょうか。人事担当者が自社の戦略が立案された背景を正確に理解できず、戦略実行手段としては不十分な人事戦略や人事制度を策定してしまうことにもつながりかねません。

筆者は、1990年後半から、人事制度を戦略の実現手段として構築できないかという打診や依頼に応え、以来30年近く、「戦略人事」に関わってきました。古くは、日本発の「方針管理」を目標管理に結合するという戦略的方針管理という手法、次に、当時所属していたヘイグループ、現コーンフェリーが提携した会社が推進しているバランスドスコアカード(BSC)という手法を含め、様々な取り組みを実施してきました。現在は、運用負担が大きくなりがちなBSCではなく、顧客企業の事業特性や組織の状況に合わせた方法にて戦略人事の構築を様々な形で支援しています。

1. そもそも事業戦略とは

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事業戦略とは「各事業の方向性を示すもの」であり、「製品市場戦略」と「競争戦略」の2つの側面を含みます。

製品市場戦略は「現有する製品および市場でもって収益を最大化するための戦略」であり、競争戦略は「主たる競合に打ち勝つための戦略」です。

事業戦略の目標(売上や営業利益、中期的にはROEや事業価値/株主価値など)を設定する際は、これら製品市場戦略と競争戦略をセットで考えることで、効果的かつ実現可能性の高いものを設定できるのです。

本コラムでは上記の事業戦略のうち、競争戦略の定石を説明します。
(製品市場戦略に興味がある方は「戦略定石―製品市場戦略編」をご覧ください)

覚えておくべきキーワードは下記の5つです。

  1. ポジショニング・アプローチ(業界において自社に優位な環境に身をおこうとするアプローチ)
  2. 資源アプローチ(競争優位をもたらす独自性の高い経営資源を競争力の源泉とみなすアプローチ
  3. ライフサイクル別戦略(事業のライフサイクルにおけるフェーズを起点にして戦略を考えるアプローチ
  4. 競争地位別戦略(自社および競合他社の市場における競争地位を起点にして戦略を考えるアプローチ
  5. 逆転の競争戦略(競合他社の強みを弱みに変える戦略)

2. 競争戦略とは

競争戦略は、主たる競合に打ち勝つための戦略であり、下記3つの意思決定が求められます。

  1. 競争優位を作り上げる独自の能力・資産の見極め
  2. 競争に必要とされる機能分野別の方針の決定
  3. (複数事業を営んでいる場合は)事業間のシナジー効果の創出方法の決定

2-1. 競争戦略の4つのアプローチ

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出所:青島ほか『競争戦略論』東洋経済新報社より編集

競争戦略の考え方としては、

  • (縦軸で)利益の源泉を「組織の外」に求めるか、あるいは「組織の内」に求めるか、
  • (横軸で)利益の源泉を「要因」ととらえるか、あるいは「利益が生み出されるプロセス」ととらえるか

という観点から、「ポジショニング・アプローチ」「資源アプローチ」「ゲーム・アプローチ」「学習アプローチ」の4つに大別できます。

ポジショニング・アプローチ

ポジショニング・アプローチとは、産業構造を分析して、その中で自社をどう位置づけるかという視点から、競合との関係で都合の良い環境に身をおこうという考え方です。どんな産業でも個々の企業の個別努力では乗り越えられない構造的な力が働いているからです。この場合、戦略策定のプロセスとしては事業展開に必要な、あるいは成功要因となるような資源や能力が不足していたなら、それを迅速に調達することを考えます。

ここでいうポジションとは、物理的な立地、競合他社との関係、場合によっては人の心の中の中心的な位置付けだったりします。ポジショニングから生じる競争優位としては、「ブランド」「顧客との密接な関係」「政府の保護や支援」「ステータス」「流通チャネル」「地理的立地」「事実上の標準」「製品や情報の流れのゲートキーパー※」などがあります。

ポジションの優位性は、一般に先行企業が獲得しやすいものであり、競合との比較によって成立するものだと考えられます。ポジショニング・アプローチは、今日のように、ほとんどの市場が成熟期や衰退期の場合に重要です。成長期にはどのようなポジションであっても利益を出せますが、成熟期や衰退期にはポジションの取り方を間違えると大変なことになります。

※ ゲートキーパーとは、オンライン検索エンジン、アプリストア、メッセンジャーサービスなど、いわゆる「コアプラットフォームサービス」を提供する大規模なデジタルプラットフォームです。

資源アプローチ

資源アプローチでは、市場からは容易には調達できないような固定的な経営資源に着目します。ここで、固定的資源とは、それを獲得・維持するのに時間がかかるような資源で、ブランド、企業文化、従業員や技術、情報といった無形の資産に加え、組織能力も含まれます。競争優位をもたらす独自性の高い経営資源こそ競争力の源泉だと考えるのです。

資源アプローチ、あるいはリソース・ベースト・ビューと呼ばれる戦略観にはさまざまなものがありますが、共通点は下記3つです。

  1. 事業を遂行するために必要な知識や行動の体系という経営資源に注目すること
  2. 市場取引では簡単に入手・獲得できない情報・ノウハウなどの経営資源(見えざる資産)に着目すること
  3. 人間の学習能力が重要であり、学んだ内容に多様な展開の可能性があるので、それを生かしたマネジメントを心がけることでダイナミックな成長が可能

資源アプローチでは具体的な事業内容を設定する前に資源の蓄積活動を行うことになるため、資源蓄積に方向性を与えるようなメカニズムが必要となります。そこで、たとえば、事業領域(ドメイン)と呼ばれる事業の長期的な将来構想が重要な意義をもってきます。

なお、こんにち重要であるDX戦略は自社が保有する顧客データ等を活用するという意味で、資源アプロ―チと言えます。

ゲーム・アプローチ

経済学におけるゲーム理論を経営戦略に利用したもので、その特徴は相手の出方を読みながら、相互の打ち手の成り行きを予想するという考え方がベースとなっています。駆け引きを想定させるので他社からより多くの利益を奪おうとする意図を感じるかもしれませんが、ゲーム・アプローチが注目するのは、自社の目標を達成する上で都合のよい外的環境を作り出すことであり、自社の目標実現に他社が進んで協力してくれるような、WIN=WINの状況(補完関係)を作り出すことが好ましいという考え方になります。

たとえば、ヤマト運輸が宅急便事業を始めたときの話は、補完関係の認識という点で興味深いものです。宅配ビジネスにとっての最大の問題は、散在する不確定な個別の荷物需要を効率よく取り込むことが難しいという点でした。この点が大手の運輸業者が宅配市場への参入に二の足を踏んでいた理由です。この問題を解決したのが取次店制度です。この仕組みの優れた点は、顧客、取次店、ヤマト運輸の3社がWIN=WINの関係になることです。

小倉氏は次のように説明しています。

「・・・取次店には一個につきいくらという具合に手数料を払う。取次店となる酒販店や米穀点にとっては大した手間をかけることなく副業収入となるからメリットがある。また、お客様にもメリットがある。わざわざ取次店まで荷物を持ち込んでいただいた手数を考え、自宅まで集荷に行った時の運賃より割り引いてあげるのだ。なによりヤマト運輸には、効率よく荷物が集められるというメリットが生まれる。すなわち、三方が得をするわけである」

-小倉昌男「小倉昌男経営学」日経BP社

学習アプローチ

一般に、戦略のベースとなるような情報は事前に全てわかっているわけではありません。とりわけ、今日のように環境が激しく変動している場合、先の状況はなかなか見通せません。そこで、事業を遂行するその場その場で学んでいくことが重要となります。

まずは、事業を展開する「場」の選択が問題です。どのような場所で事業を展開するかによって、学ぶ内容が大きく変わってくるからです。

次に、選択した「場」において学んだ内容を振り返り、今後の事業展開にどのように活かすべきかを検討することが重要です。たとえば、ホンダが二輪車で米国に進出した事例は、学習アプローチの典型例です。ホンダは、本格的な二輪車で米国市場に切り込むことを考えていたのですが、その営業のために日本から持ち込んで使っていた原付バイクが、たまたま人々の関心を引いたのでした。そこから米国市場の足掛かりをつかんだのです。つまり、当初輸出も考えていなかった原付バイクの潜在的な価値に途中で気づき、原付バイクを足掛かりとして、あらたな市場を拡大していったのです。

学習アプローチに基づく戦略は、新製品開発や新規事業構築のように、不確実性が極めて高い環境に適切であり、正しい戦略が市場から湧き出る、つまり、創発されるようなアプローチという点から「創発的戦略」とも呼ばれています。

2-1-5. ポジショニング・アプローチと資源アプローチを採用する理由

本コラムではコア事業の競争戦略における重要なアプローチとして、「ポジショニング・アプローチ」と「資源アプローチ」の2つをベースに解説します。私の経験からは、ポジショニング・アプローチと資源アプローチを組み合わせた戦略を確実に実行するだけでもコア事業の収益性を十分に向上できるものです。

なお、学習アプローチに基づく戦略は、スタートアップやベンチャーに適した戦略ですが、実際には学習アプローチを明確に意識し、具体化した戦略を採用しているスタートアップやベンチャーは少ないものです。新製品開発や新規事業構築についてはイノベーション・マネジメントとして別途コラムを掲載します。

2-2. ポジショニング・アプローチをベースにした競争戦略のタイプ

ポジショニング・アプローチは一番歴史が長く、このアプローチをベースとした競争戦略がいくつか確立されています。

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ポジショニング・アプローチは状況に対応するという考え方ですから、その視点から分けると、競争戦略は市場対応と競争対応に分かれます。市場対応は大きく分けて「A.ライフサイクル別」「B. 普及度合別」「C. 市場(事業)特性別戦略」に分類できます。競争対応も大きくわけて「D.競争地位別」「E.参入順位別」に分類できます。ただし、これらは業界構造が安定的であり、業界の区分が明確な状況を前提として考えられたものです。

これらの競争戦略は概念的なものですが、戦略策定の実務にとって有用な切り口あるいは判断基準となります。まずは、ライフサイクル別戦略について見ていきます。

3. 市場対応型の競争戦略

3-1. ライフサイクル別戦略

製品は、通常、「生成」「成長」「成熟」「衰退」の4つの段階をたどり、これをプロダクトライフサイクルと呼びます。プロダクトライフサイクルは「商品」を中心に見ますが、これに「市場」を組み合わせることで「事業のライフサイクル」と捉えることができ、事業戦略策定の準備に活用できます。

事業のライフサイクルの各段階における特徴は、プロダクトライフサイクルのそれに似ていますが、違うところは、事業のプレーヤーたちは、何らかのイノベーションを通じて顧客に新しい価値を提供しながら、事業のライフサイクルを伸ばしていくことが多いというところです。

事業の離陸

技術と用途の結びつきで事業が生成されても、それだけでは需要が拡大していくわけではありません。たとえば、インスタントコーヒーは大きな市場に成長しましたが、同じ粉末飲料で粉末ジュースなどは市場が拡大しませんでした。事業が成長期へと飛躍していくためには、二つの条件が必要です。

  1. 業界標準の確立:業界標準が成立することで、企業は安心して投資でき、消費者の安心感や利便性が高まります(例:VTR)
  2. 安定した需要:生活に定着した安定した需要が確保される必要があります
生成期

技術と用途の出会いによって、新しい製品・サービスが生まれ、事業のライフサイクルが始まります。このときの主要顧客は新製品が好きな層、つまり、革新的採用者(イノベーター)と言われる人たちです。これまで世の中になかった製品を出した場合は、その製品が何なのか、どんな効用・メリットがあるのかを顧客に説明しなければなりませんから、製品を認知してもらうために広告活動を活発にします。

事業の基本的方向性としては、競争企業はほとんどいないので、シェア拡大の絶好の機会といえるでしょう。ここでは先行者優位を確立するために競争上のルールや事実上の標準を設定してしまうことが賢明です。収益性としては、浸透価格戦略※を取るなら低収益ですが、それまでの投資を回収するために上澄み吸収価格戦略※を取るなら、高収益もありえます。いずれにせよ、最初の価格決定が製品のイメージを決めることになります。

※ 浸透価格戦略(ペネトレーション・プライシング)とは、積極的に市場シェアを獲得するために、価格をコスト以下あるいはコスト同等に抑えて、競合他社が追随できないようにする戦略です。

※ 上澄み吸収価格戦略(スキミング・プライシング)とは、開発コストを早期に回収するために、富裕層やマニア層(イノベーター層)など高くても購入してくれる層をターゲットにする戦略です。

生成期の価格戦略は、積極的な市場シェア獲得、あるいは早期の資金回収のどちらを優先するかに応じて上記2つの戦略に分類できます。

成長期

この時期は、製品の品質にむらがあっても買い手はつきますが、ライバルが参入してくるため競争が激しくなります。

事業の基本的方向性としては価格やイメージを変更し、コスト重視か差別化戦略のいずれかに絞ることになります。マーケティング活動では、広告宣伝で市場への浸透を図り、ブランドを認知させることに力を注ぎます。生産能力が不足するので、大量生産に移行するとともに、多様な流通ルートを開拓し、より多くの人たちをターゲットにしてシェアを拡大していきます。事業の収益性(利益)を高める絶好のチャンスです。この段階での価格決定には、目標利益を確保するためのCVP(Cost Volume Profit)分析が有効です。

成熟期

成熟期になると、製品はコモディティ化し、差別化が難しくなってきて価格競争に陥ります。製品の下取りも増えます。

事業の基本スタンスは、コスト競争力を確保することであり、厳密な原価管理※(さらには原価企画※)が重要となります。マーケティング上は、品種を増やすだけではなく、包装などが比較的重要になります。革新性を追及した製品の提案は不要となり、R&D費用も低下します。価格の決定については、設備や開発費の償却が終わっているため、直接原価が確保できればよいものの、収益性は悪化します。

※ 原価管理とは、実際の製造コストを監視・分析し、予算との乖離を管理・改善するプロセスです。

※ 原価企画とは、製品開発段階で目標コストを設定し、達成に向けた計画を立案する活動です。

衰退期

この時期には、買い手は製品を熟知しており、製品の差別化はほとんどなくなっています。

事業の基本スタンスとしては、いかにコストをコントロールするかが決め手です。価格は低下し、収益性も非常に厳しくなっています。マーケティング上はもはや広告費をかけられる状況ではなく、生産力も過剰となっています。一方で、残存者利益が目立ってくる時期でもあります。たとえば、ソニーは衰退期にあったオーディオテープで大きく儲けました。

3-2. 市場(事業)特性別戦略

市場(事業)の基本的特性を考慮した戦略を市場(事業)特性別戦略と呼びます。有名なフレームワークにBCGが開発したアドバンテージ・マトリクスがあります。

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アドバンテージ・マトリクスでは、縦軸に競争上の戦略変数の多寡(戦略的な打ち手がどれくらいあるか)、横軸に優位性構築の可能性の大小をとり、事業特性で業界を4つに分類しています。事業には、その基本的特性から優位性を築くことが困難な事業とそうでない事業があり、優位性構築が難しい事業では、競合が結局同じようなものを同じやり方でつくり、同じような売り方で売り、だれもが低収益という結果になってしまいます。アドバンテージマトリクスはこのようなことを分析する上で有効なフレームワークです。

分散型事業

戦略的な打ち手は数あるものの、優位性を構築できる可能性の少ない事業です。たとえば、小売店、飲食店、地場の食品販売、旅館などのサービス業など、儲かるかどうかがオペレーションの巧みさに依存している事業、アパレル業、製造業でも家具、プラスティック加工、溶接、印刷業など商売として成り立っているものの企業として大きくなりにくい事業です。

事業の特性

  1. 規模の利益がない
  2. 地域性が強い
  3. 人間関係に依存している
  4. 参入障壁が低い
手詰まり型事業

戦略的な打ち手が少なく、しかも優位性の構築の可能性も小さい事業です。もともとは規模型事業であったが、小さな企業が淘汰され、規模の効果の限界に到達している事業です。誰もコスト優位性をもたず、わずかな収益に甘んじている構造不況業種や素材型産業に多いです。具体的には製紙業、造船業、石油化学があります。

事業の特性

  1. 差別化、ブランド化が困難
  2. 付加価値が低い
  3. 多くの企業がすでに一定規模に達している
  4. 原材料価格が類似している
  5. 技術面での格差がつきにくい
規模型事業

ガラス、ビール、自動車業界などのように、規模を競争要因とする事業です。製品が比較的単純で差別化要因が少なく、しかも開発、生産、マーケティングなどで規模の経済が効力を発揮する事業です。

事業の特性

  1. 付加価値が大きい
  2. 規模の効果が大きい
  3. 大きな差別化は困難
  4. 共通技術、共通コストの比重が高い
特化型事業
医薬品、計測器業界のように、規模の効果が大きくともセグメンテーションを通じて異なる戦略を取ることが可能な事業です。たとえば、化粧品事業の場合は地域、価格帯、チャネル、あるいは技術に特化するなど、戦い方はさまざまあります。

4. 競争対応型の競争戦略

4-1. 競争地位別戦略

競争対応の戦略としては、まず、マーケティング分野で確立している競争地位別の戦略を概観し、次に、事業のライフサイクル上、競争対応を最も真剣に考えねばならない成熟期の競争戦略を見ていきます。

4-1-1. 競争地位と経営資源

競争地位は経営資源と独自性からリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの4類型に分類できます。

競争地位の4類型
経営資源 経営資源力
独自性 リーダー ニッチャー
チャレンジャー フォロワー
リーダーの戦略

リーダーとは、一般に当該対象市場で量的にも質的にも経営資源に優れる企業とされ、最大のシェアをもった一社のみをいいます。

リーダーの戦略定石は、下記4つになります。

  1. 周辺需要の拡大(市場そのもののパイを拡大させる戦略)
  2. 同質化対策(チャレンジャーがとってきた差別化戦略に対して、それらを模倣・追随することで、差別化効果を無効化する戦略)
  3. 非価格対応(下位企業の安売り競争に安易に応じない戦略)
  4. 最適シェアの維持(最適シェア以上にシェアを拡大させない戦略。シェアが一定以上になると、費用逓増の法則が働き、高める努力がそのコストに見合わなくなり、利益率がかえって減少してしまいます)
チャレンジャーの戦略

チャレンジャーとは、リーダーに準ずる相対的経営資源をもち、しかもリーダーとのシェア争いを行いうる地位と意欲をもつ企業です。

チャレンジャーの戦略定石は、リーダー企業の反撃を予想しながら、防御可能な戦略をとることを基本とし、リーダーとは異質な戦略を取ることです。ポイントは、リーダーが反撃しにくい戦略でチャレンジすることです。

たとえば、キリンビールにチャレンジしたアサヒビールの場合、鮮度を強調した新しい味の「スーパードライ」を開発し、メーカー系列の酒販店ではなく、量販店を中心とした販売戦略を取りました。系列の酒販店に依存していたキリンビールは、アサヒビールの戦略に有効な反撃を加えることができなかったとされます。リーダーが追随できないような戦略とは具体的にどのような戦略なのか、については「逆転の競争戦略」で説明します。

フォロワーの戦略

フォロワーとは、相対的経営資源や意欲においてシェアを狙うポジションにはおらず、同時に、きわだった独自性をもたない企業です。

フォロワーの戦略定石は、リーダーに追随して自らの地位を守ることです。リーダーの虎の尾を踏まないことが重要です。

ニッチャーの戦略

ニッチャーとは、フォロワーと同様、相対的経営資源や意欲はリーダーを狙う位置にないが、なんらかの独自性を有する企業です。

ニッチャーの戦略定石は、ポーターの集中に類似した戦略で、特定の市場セグメントに集中ないし特化することが基本です。特化することでリーダーやフォロワーとの競争を回避し、限定された領域でリーダーになる戦略です。

4-1-2. 成熟期の競争戦略

成熟期の商品は、顧客から見ると既に飽き飽きしているので、多少の差異は関係ありません。結果として従来どおりでよいということになり、いつもの業者からいつもの商品を購入することになります。要するに、成熟期ではこれまでの関係を重視して前と同じ選択をするという傾向が強いのです。

勝ち組の動き方
顧客が選択を変えないのは、要するにトップ企業だからということが理由です。となれば、波風を立てない、膠着した競争構造を絶対に変えない、業界をできるだけ古い体質にしておく、新しい取り組みが起きたらそれをつぶす、というのが勝ち組の戦略になります。負け組企業が価格を下げてきたら、勝ち組も価格を下げていって体力勝負に持ち込み、負け組がつぶれるのを待ちます。
負け組の動き方
成熟期に負け組にはいってしまうと、容易なことでは状況を打開できませんから、基本的には市場を導入期に戻す必要があります。つまりイノベーションです。どういうイノベーションであるべきかというと、顧客にとって商品のイメージががらりと変わるもの、具体的には使い勝手やライフスタイル、ワークスタイルが変わると顧客に思わせるようなものである必要があります。

4-2. 参入順位別戦略

先行者優位がよく知られていますが、実際には後発が優位に立つ場合もあり、どのような条件のときに先発もしくは後発が優位に立つかという基準が設定されています。

4-2-1. 先発者と優位性の基準

まず、先発者とはドミナント・デザインを決定付けた企業のことです。ドミナント・デザインとは、市場の支配を勝ち取ったデザインで、さまざまな製品に対し、独自に導入された、個々のイノベーションから合成された新製品、あるいは一連の特徴の組み合わせのことを言います。

典型的な例としては、かつてのIBM PCです。IBM PCは、モニター、標準ディスクドライブ、キーボード、インテル8088CPU、オープンアーキテクチャー、OS=MSDOSの組み合わせで、これらは当時のPCのコンセプトの80%を決定していました。製品とその先発者の例として下記の表を見てください。

先発者が優位性を発揮した例
分野 製品 先発者
AV ヘッドフォンステレオ ソニー
事務機器 電卓 シャープ
コンピュータ・ハード PC(世界) アップル
コンピュータ・ソフト PC用OS デジタルリサーチ
通信機器 FAX(国内) 松下電送

-山田英夫他『先発優位・後発優位の競争戦略』生産性出版から編集

優位性の基準は、単年度の年間販売台数シェアとし、先発者がシェア一位を維持し続けた場合に先発優位とし、時間幅は15年を目安とします。

4-2-2. 先発優位・後発優位を分ける条件

図2を見てください。技術面とマーケット面にわけて条件を検討していきます。

先発優位・後発優位を分ける条件
技術面 先発が優位な条件 後発が優位になりうる条件
非連続技術革新 ※1
経験曲線の傾き※2
知的財産権による保護 ※3
標準化のタイプ ※4 デファクトスタンダード デジュリスタンダード
事業領域の変化 ※5 小さい 大きい
マーケット面 先発が優位な条件 後発が優位になりうる条件
顧客ニーズの把握 ※6 困難 容易
採用者カテゴリー毎のニーズ ※7 同じ 異なる
用途の変化 ※8
スイッチング・コスト ※9 高い 低い

山田英夫他『先発優位・後発優位の競争戦略』生産性出版

技術面の条件

※1. 非連続の技術革新が起こると、後発逆転のチャンスが生まれます。

※2. 経験曲線の傾きが急勾配を描くのは、累積生産量が増えるにつれてコストが急低下する製品であり、自動車、精密機器などがあります。このような業界では先発者が有利になります。一方、累積生産量がコストに与える影響が少ないソフトウェアや医薬品などの場合は、これだけでは先発優位になりにくいものです。

※3. 知的財産権は期間を限定した参入障壁としての機能があるので、先発者はその間に累積生産量を増加させてコスト優位を築くことができます。

※4. 業界標準としてネットワーク外部性が働く場合には、早い段階でシェアを拡大し、ディファクト・スタンダードを獲得するために技術を公開するという戦略が取られます。しかし、後から公的標準化(ディジュリ・スタンダード化)されると、先発者の規格を決定できる優位性はすべて白紙にもどされてしまいます。ただ、公的標準化されたとしても、それが多くのユーザーに使われなければ意味はありません。

※5. 事業領域が変化すると後発逆転の可能性が出てきます。たとえば、国内から世界へ事業領域を変えるとか、製品レベルでは単体から他の製品とのバンドリング(同梱)にするとか、土俵を変えてしまうということです。

マーケットからみた条件

※6. 顧客ニーズを把握しやすい場合とは、ユーザーが測定可能なコスト・パフォーマンスを求めている場合であり、技術開発競争に勝てば後発企業でもリーダーになることができます。たとえば、特定ユーザーにとってのPCです。顧客ニーズが主観的、感覚的だったりして把握しにくい場合は、先発者はユーザーの生の声を反映させながら、次の商品の完成度を高めていくことができ、競争優位につながります。

※7. 初期の採用者と後期の採用者とのニーズに大差がない場合はもちろん先発者がそのまま優位性を確保できますが、顧客ニーズの差が大きい場合は、後発者が逆転するチャンスは当然大きくなります。

※8. 製品・サービスの用途に変化があれば、先発者が蓄積してきたノウハウやネットワーク外部性の効果が減少し、後発者が逆転する可能性が出てきます。かつて、不在時の留守録に使われていた家庭用VTRは、映画ソフトを借りて観るという新たな用途がうまれることになり、レンタルビデオ店に営業攻勢をかけることでVHS陣営がディファクトを獲得することになったのです。

※9. 切り替えコストについては、次のような変化があると必ずしも優位性を持続できません。

  1. 公的標準が設定されることによって、先発者が築いてきた切り替えコストが無意味になることがあります。
  2. ファミコンからプレイステーションへの切り替えのように、イノベーションが起きて新技術へ切り替えることの効用が大きい場合です。
  3. 新たな規格を採用した方が効用が大きい場合です。また、本体を機能させるための消耗品や部品などの補完製品の購買頻度が高いとか、またメーカー間の互換性がないなどの場合、切り替えコストは高くなります。

4-2-3. 先発者および後発者のとるべき戦略

先発者の取るべき戦略

第一に、後発者が追いかけてくる中で、速いスピードで絶えず「技術改良」を続けていく必要があります。技術革新をしてしまうと、かえってネットワーク効果をうしなってしまうことがあります。そして、業界最高のコスト・パフォーマンスを提供し続けることです。

第二に、製品の中核をなす部品を当該製品のみならず、自社製品ひいては他社への部品供与・OEM供給などによって累積生産量を増やすべきです。それによってコストダウンが可能です。

第三には、ディファクト・スタンダードでシェアをとった場合には、公的標準化に関してはその動きを阻止し、それが難しそうな場合には、自社の規格を公的標準にもっていくようにすることです。また、自社の商品が陳腐化してしまうような次世代規格の統一作業に関しては、それを遅らせるようにすることです。

第四に、製品によっては、デザイン、ユーザー・インターフェイスなどの定性的な部分に付加価値をつけ、後発者の開発目標を多元化することで、後発者がキャッチアップすることを防ぎます。

第五に、ユーザー・インターフェイスの習熟や、市場に蓄積される資産を増やし、ユーザーやチャネルを囲い込んでしまうことで、切り替えコストを高めることです。最後に、先発者は先に市場に出した優位性を最大限に活かし、ユーザーの声を吸収し、それに迅速に対応できる組織作りをすることです。

後発者が逆転するための戦略

何らかの形で土俵を変えることが必要です。ネットワーク外部性が働く分野では、理論的には先発者が優位ですが、

第一に、先発者がクローズドな規格によって市場を開拓している場合には、後発者はオープンな施策によって仲間を増やし、量産効果が効くようにします。

第二に、ソフトウェアのように、バンドリング政策(たとえば、OSであるWINDOWSにOFFICEを添付するなど)により自社が強い製品分野に競争の土俵を移していくことによって、先発者の製品を付属物にしてしまうことも有効です。

第三に、先発者とは異なる市場・用途を開拓することによって、先発者のネットワーク外部性の影響を回避することもできます。

第四に、先発者の規格と異なるような公的標準化が後で行われれば、先発者のネットワーク外部性は働かなくなるので、出遅れた企業は団結して標準化機関に別の規格を提唱していくべきです。

5. 逆転の競争戦略

逆転の競争戦略とは、競合企業の強みを弱みに変える戦略です。

従来の競争戦略の考え方とは、競合企業の弱みを探し出し、それを自社の強みによって攻撃するというものでした。しかし、企業と企業の戦いは永続的であり、競合企業も自社の弱みを理解していますから、時間をかけてそれを克服していきます。その結果として、競争業者の付け入るすきは小さくなっていきます。

特に、市場が成熟期に入ると、リーダ-企業は競争業者の攻撃に対してきわめて強固になるため、挑戦者が従来の競争戦略を取ってシェアを奪取できる可能性は少なくなっています。これまで挑戦者の戦略定石としては、リーダーが追随できないような差別化戦略をとることだとされ、いくつかの研究から箇条書き的に戦略案が示されるにとどまっていました。そんな中で、早稲田大学の山田英夫教授が、包括的で有効なフレームワークを提示されています。以下、その内容を概説します。

5-1. リーダー企業が転落する場合

ここでのリーダーとは、特定の事業において相互に競争をしていると顧客が思うような企業の中で最大のマーケットシェアをもつ企業と定義されています。

5-1-1. リーダー企業を転落させる3タイプの攻撃者

リーダー企業が転落する場合、下記3タイプの攻撃者の存在を確認できます。

  攻撃者のタイプ
  1. 業界破壊者 2. 侵入者 3. 挑戦者
  業界そのものを破壊させるような競争業者 業界は残しながらも、その中でリーダーの地位を転落させる他業界から参入してくる競争業者 以前から同じ業界にいた下位企業でリーダーの地位を奪う競争業者
攻撃者の本籍 異質な他業界 隣接業界 同一業界
攻撃者の武器 機能の同一性 異種の経営資源 リーダーが追随しにくい差別化
攻撃初期のリーダーの反応 自社の敵とは認知できない 侵入者の経営資源 動揺
転落の兆候 売上の減少 シェアの減少 シェアの減少
転落の指標 業界の消滅 首位からの転落 首位からの転落
事例 携帯電話によるポケベルの駆逐 イトーヨーカ堂やソニーの銀行進出 花王に対するライオン、P&G

山田英夫『新版 逆転の競争戦略』生産性出版より編集

業界破壊者とは、機能を同一とした別次元の代替品、サービスによってリーダーを攻撃してくる企業です。たとえば、ポケベルは携帯電話に駆逐されてしまい、レコード針はCDにつぶされてしまいました。

侵入者は、リーダーとは異種の経営資源を持って参入してくる場合が多く、具体例としてはソニーやマイクロソフトのゲーム機への参入などがこれにあたります。侵入者は、(1)異業種企業 (2)元買い手企業 (3)元供給業者の三つが代表的です。

異業種からの参入としては、似たようなコア技術を持つ隣接業界、たとえば資生堂などの化粧品事業に参入した花王などが好例です。ノウハウは川下に蓄積される傾向が強いので、買い手企業が競合となる場合があり、たとえば、かって半導体を購入していたヤマハが音楽用ICを外販しています。元供給業者の例としては、JRが旅行事業に進出しています。

5-1-2. リーダーが転落する引き金

競争業者が攻撃を開始する引き金としては、以下の3つがあります。

1. 非連続的な技術革新

非連続的技術革新においては、一世代前のリーダーは、その世代の技術を最高レベルにまで高めていってしまう傾向があり、次世代の技術への着手が遅れたりして次世代のリーダーになれないことが多いのです。

非連続の技術革新の例
非連続的変化 製品例
物理現象〜電子現象 水銀式体温計〜電子式体温計
アナログ〜デジタル レコード〜CD
接触式〜非接触式 磁気カード〜非接触式ICカード
磁気記録〜光記録 フロッピーディスク〜光ディスク
マイクロエレクトロニクス〜プロテイン・エンジニアリング 半導体IC〜バイオチップ

山田英夫『新版 逆転の競争戦略』生産性出版

ユーザー・ニーズの変化

ユーザー・ニーズの変化として重要なのは、企業が想定している競争相手とユーザーが想定している競争相手が一致しないことが起きているということです。たとえば、携帯電話は腕時計、特に、若い世代、特に女性向け腕時計に深刻な影響を与えています。

ユーザー・ニーズの変化による業界のパワーシフトの例
ライフスタイルなどの変化 競争構造の変化の例
就業女性の増加 化粧品:小売業から通販業へ、訪問業者の衰退
健康志向 医薬品産業からスポーツ産業へ
所有と利用の使い分け 販売業からリース・レンタル業へ
時間短縮志向 運輸業から通信業界へ

山田英夫『新版 逆転の競争戦略』生産性出版

法律制度の変更

法律・制度の変更には、(1)規制緩和 (2)規制強化 (3)新制度・新規格の制定の3つがあります。これらはいずれも業界の競争ルールを変更する可能性をもっています。

法律・制度の変更の例
  具体例
規制緩和 農業経営、保存文書の電子保存の容認、登記のオンライン申請など
規制強化 BIS(国際決済銀行)規制、自己資本比率8%以上
新制度・新規格の設定 会計基準の変更、日本工業規格(B判からA判へ)

山田英夫『新版 逆転の競争戦略』生産性出版

5-1-3. リーダーが追随しにくい戦略

競争地位の逆転という点から、挑戦者に的を絞って話しを進めます。

挑戦者が攻撃する対象は、リーダーのもつ企業資産と顧客資産の二つです。企業資産とは企業内に蓄積してきた資産、たとえば、松下電器の成長をささえてきてくれた系列店が一例です。顧客資産とはリーダーが顧客に蓄積してきた資産であり、企業に対するイメージのような無形資産も含まれます。

攻撃の方法としては、リーダーとしては本来なら同質化対策をとりたいのですが、経営資源の大幅な組み換えが必要になるため追随しにくいもの(競争優位の源泉)と、同質化政策を取ろうと思えば取れるのだけれど、社内外の事情によりリーダーとしては追随しにくいものがあります。後者としては、挑戦者が新製品を販売するなどして新たな競争要因を追加しているわけです。

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5-1-3. 「逆転の競争戦略」の内容

企業資産の負債化

これは組み替えの難しい企業資産や企業グループが有する資産が競争上価値がなくなってしまうような製品・サービスや仕組みを開発することによってリーダーを攻撃する戦略です。

  • まず、リーダーのマネジメントシステムの弱点を発見し、競争のルールを変更してしまうのが一つです。たとえば、マクドナルドのレディメード方式に対してモスバーガーはバイオーダー方式を採用しています。
  • また、過去のしがらみなどからリーダーは流通チャネルに手をつけにくいことが多いので、新しい競争のルールを作り出し、流通チャネルを使えなくしたり、競合にとって重荷にしてしまうことが可能です。たとえば、大手の証券会社は営業マンを通じて巨額の手数料を得ているため、営業マンを全廃してインターネット一本に絞り、手数料を安くした松井証券を追随できない状況となっています。
顧客資産の負債化

これは、顧客に蓄積されていて組み換えの難しい資産が競争上価値を持たなくなるような製品サービスやしくみを開発することによってリーダーを攻撃する戦略です。

  • リーダー企業と別の土俵を設定した例としては、かつて日本IBMが日本のPC市場で進めたDOS/V機の開発・販売があります。(ただし、実際に成功したのは、DOSのヴァージョン5からで、このときはマイクロソフトのMS―DOS v5がマーケットに支持されました。また、DOS/Vの恩恵を一番受けたのはコンパックでした)
  • リーダー企業の土俵を利用した例としては、エッソ石油による、他社の現金カードを持参すれば割引するというキャンペーンがあります。
論理の自縛化
リーダー企業がこれまでユーザーに対して発信していたメッセージと矛盾するような製品・サービスを出すことによって、リーダーが安易に追随すると大きなイメージダウンを引き起こす戦略です。たとえば、キリンは、主力製品のラガーを守ろうとするあまり、長い間生ビール市場に参入できなかったということがあります。
事業の共喰化
リーダーが強みとしてきた製品・サービスと共食い関係にあるようなものを販売することによって、リーダー企業内で追随できないようにしてしまう戦略です。たとえば、J&Jの小型歯ブラシに対し、リーダーのライオンは歯磨きの消費量を少なくするような製品は追随できませんでした。

ここまで見てきたように、事業の置かれた状況や競合との関係において、戦略はある程度決まったシナリオに従うということができます。但し、戦略定石はあくまで定石にすぎません。ですから、事業環境を徹底的に分析し、顧客及び自社の動き、そして他社の動きを客観的に正確に把握することが重要となります。

以上が競争戦略の定石になります。
なお、戦略定石を踏まえて立案した戦略を確実に遂行するには、組織の活力の強化も重要であり、それは人事部門の活躍どころです。

まとめ

競争戦略は主たる競合に打ち勝つための戦略であり、「競争優位を作り上げる独自の能力・資産の見極め」「競争に必要とされる機能分野別の方針の決定」「事業間のシナジー効果の創出方法の決定」の3つの意思決定が求められます。

競争戦略は「ポジショニング・アプローチ」「資源アプローチ」「ゲーム・アプローチ」「学習アプローチ」の4つの戦略観に大別できます。ポジショニング・アプローチは、業界において自社に優位な環境に身をおこうとするアプローチで、資源アプローチは、競争優位をもたらす独自性の高い経営資源を競争力の源泉とみなすアプローチです。

ポジショニング・アプローチによる戦略は、市場対応型の「ライフサイクル別戦略」「市場特性別戦略」、競争対応型の「競争地位別戦略」「参入順位別戦略」がよく知られています。成長期にはどのようなポジションであっても利益を出せますが、成熟期や衰退期にはポジションの取り方を間違えることは命取りになりかねないため、多くの市場が成熟期や衰退期にある日本においてはポジショニングを意識した戦略がとても重要です。

DX戦略は自社が保有する顧客データ等を活用するという意味で、資源アプロ―チと言えます。

競合企業の強みを弱みに変える戦略を「逆転の競争戦略」と言います。リーダーの企業資産あるいは顧客資産を負債化させる製品・サービス、リーダーの論理を自縛化、あるいは事業を共喰化させるような製品・サービスを展開することが逆転の競争戦略の定石です。

 

参考文献:
相葉 宏二, 1995,『日本企業変革の手法: すべてはタコツボの破壊から始まる』, プレジデント社
青島 矢一ほか, 2012,『競争戦略論』, 東洋経済新報社
小倉昌男, 1999,『小倉昌男 経営学』, 日経BP
髙橋宏誠, 2010, 『企業価値を高める事業戦略がわかる 戦略経営バイブル』, PHP研究所
山田英夫他, 1998,『先発優位・後発優位の競争戦略: 市場トップを勝ち取る条件』, 日本生産性本部
山田英夫, 2004,『新版 逆転の競争戦略: 競合企業の強みを弱みに変える』, 日本生産性本部
山田英夫, 2007,『逆転の競争戦略 第3版: 競合企業の強みを弱みに変えるフレームワーク』, 日本生産性本部